こんにちは。E’s Club スタッフです。
前回、16年分のディスカッションマテリアルを数えた話を書きました。
今回はその続きで、テーマの中身がどう変わったかを見ていきます。
先に結果を書きます。テーマは年々むずかしくなりました。ただし、むずかしくなったのは扱う内容のほうで、英語そのものはまったくむずかしくなっていません。この2つがずれていたことが、今回の分析でいちばん意外だったところです。
単語の難しさは16年間動いていない
教材本文に出てくる英単語を、基礎・中級・上級の3段階に分けて、年ごとに集計しました。

基礎が48%前後、中級が42%前後、上級が8%前後。2011年から2025年まで、この比率がほとんど動いていません。上級語彙は5%から9%のあいだをうろうろしているだけで、右肩上がりの傾向は出ませんでした。
ひとつ断っておくと、この難易度の判定は簡便な方法です。基礎語リストに載っていない語で、なおかつ7文字を超えるものを上級として数えています。CEFR-Jのような正式な指標と突き合わせたわけではないので、絶対値としては粗い。それでも16年間ずっと同じ物差しで測っているので、動いていないという結論のほうは信用していいと思います。
一方で、テーマの抽象度と質問の複雑さは、はっきり上がりました。

抽象度スコアは2011年の0.53から、直近で0.74から0.79のあたり。質問複雑性スコアは1.6から3.4へ、2倍以上になっています。質問複雑性と年の相関は r = +0.76 (p < .01)で、統計的にも上昇と言い切れます。
抽象度と質問複雑性のあいだにも相関がありました(r = +0.58, p < .05)。テーマが概念的になった年は、質問も長く複雑になっている。この2つは連動して動いています。
具体的にどう変わったか、実際の回で並べるとこうです。
ペットを飼っているか、飼うならどんな動物か。身近な話題で親しみやすい内容です。
承認欲求をどう扱うか、他人の期待に応える生き方をどう思うか。
答えが一つに決まらない質問ばかりです。
どちらも英語のレベルは大きく変わりません。変わったのは、何について考えるかのほうです。
いちばん多い質問は「あなたはどう思うか」
質問4,645件のうち、疑問文として有効なものを3,169件抜き出して、ブルームの認知分類にかけました。記憶、理解、応用、分析、評価、創造の6段階に質問を分類する方法です。
最多は「評価」を求める質問で、約23%。賛成か反対か、それは正しいか、どちらを選ぶか。事実を思い出させる低次の質問より、判断を求める質問のほうが多かった。
これも実例を挙げます。
2017年・第149回前半「 How Artificial Intelligence (AI) Will Change Recruitment?」
2013年・第64回後半「 Euthanasia(安楽死)」
2012年・第35回後半「What is happiness?」
2012年の時点で幸福を扱っているので、抽象的なテーマが最近になって急に出てきたわけではありません。ただ、こういう回が全体に占める割合は明らかに増えました。
自分の意見を持とう
ここからは私の意見です。
中上級で伸び悩んでいる人が最初にやるのは、たいてい語彙の強化です。単語帳を買い直す、英字新聞を読む、知らない語をメモする。私もやってきました。
でもこのデータを見ると、E’s Clubで16年やってきた人たちが実際に使っている英語は、基礎と中級で9割です。上級語彙は8%しかない。それでベーシックインカムの是非も安楽死も議論できています。
だから、単語を増やしても議論の質は上がらないと思います。上がるのは読解の速度で、それはそれで価値がありますが、話せるようになるのとは別の話です。
じゃあ何をすればいいのか。私の答えは、Whyに答える練習をすること。それだけです。
日本人が議論で止まるのは、英語が出てこないからではなく、意見が固まっていないからだと思っています。「どちらとも言えます」で終わる人は、日本語で聞いても同じことを言う。ここは語学の問題ではありません。
もちろん語彙がないと聞き取れないし、聞き取れなければ議論に入れない。それはそのとおりです。私が言っているのは優先順位の話で、単語をやるなということではありません。
ただ、単語帳を3周する時間があるなら、そのうち1周分を「先週のニュースについて自分の立場を3文で言う」に振り替えたほうが効くのではと思います。
やさしい英語で複雑なことを話す。これができる人が、ワークショップでいちばん話せている人でした。
さて次回は、AIが翻訳も要約もやってくれる時代に、人間同士で議論する意味がどこに残るのかについて書きます。お楽しみに。